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山下匡紀助手(空間演出デザイン学科研究室)インタビュー
聞き手:逢坂卓郎氏(作家、筑波大学教授)


:今回のこの装置のことを4月くらいから考えていて、にっちもさっちもいかなくなって、夏くらいに逢坂先生に「どうしてもダメです!」って相談に乗ってもらいました。その時に武蔵工業大学の先生を紹介していただいて、そこから突破口が開けました。本当、先生がいなかったらできなかったっていうくらい感謝です。
:僕は駆込み寺でもあるんですよね(笑)。
:(笑)そうですね。でも、お陰でこういうものができて、なおかつ三洋電機の協賛もとれて、非常にいい展開ができたなと思ってます。三洋電機さんは「エネループ」っていう充電池をつくっていて。乾電池でも良かったんですけど、やっぱり使い回しがきくとか、環境に配慮しなければいけないとか、自分がライトアップをやっていると、一番気になるところがそこだったんですよ。光のアートをやる上で、電力は使ってもただの浪費になっちゃいけないなと思って。少し新しい光の提案をしなきゃいけないだろうと。エネループも環境問題について取り組んでいる電池だったものですから、そこに目をつけていろいろ話をしたら、貸してくれたと。


・「風を感知して光を発する」という発想はどういうところから出てきたんでしょうか。

:環境庁が今「緑の扇風機」っていうプロジェクトをやっているんです。東京駅の再開発、両側に大きいビルが建ったんですけど、そこで、東京駅の上側を開口部にして、海風を皇居の方に流し込むっていう構造をつくったんです。それで、皇居の緑によってヒートアイランドを押さえよう、っていうプロジェクトなんです。そういう大型緑地が東京にはたくさんあって、そこに風を送り込むことで周りの温度を1度か2度下げる、っていう実験なんですけど、それがもう実証され始めたんです。それをニュースで見て、僕も絡んで何かできないかな、と思ったのがきっかけでした。風が熱を奪うっていう性質がわかって、それと「風を光で見せたい」っていう思いがあったものですから。実は最初は「となりのトトロ」だったんですけど(笑)。サツキとメイは猫バスを見て乗れるけど、大人は過ぎ去った姿を風でしか見えないじゃないですか。その単純なところから、風の軌跡を光で見えたら面白いのになって思ってました。そこにひっかけてたらここに繋がった、っていう感じです。本当、環境問題に関しては、こういうことをやっているからこそすごくシビアで、地域の住民の方からもいろんな話があったりして、ずっと感じていたものですから。
:猫バスとは知らなかった。
:あんまり言わないです(笑)。
:山下君は、舞台だけでも満足できない、環境を光によってライトアップするだけでも満足できない、作品だけでも満足できないっていう性格なんですよね。いろいろ手を出すのはいいんだけど、僕の希望としては、やっぱりそれをもう少し続けた中で、自分のメインになる仕事に集約していってほしいな。今はやれるチャンスがあればどんどんやればいいし、その次に展開していく重要な機会になると思うので。山下君のキャラクターもあるけど、今の時代、これだけいろんな仕事ができるのは恵まれてると思う。本当に、感情的ですぐ泣くんだよね(笑)。そういう情熱が、「やらせたい」って人の心を惹き付けたりするのかもしれない。僕から見て、すごくいい環境にあるな、と思っています。とても意欲的なので、たぶんそういうチャンスが常にあると思いますね。それは素晴らしいことじゃないかな。
:ありがとうございます。
:僕と近いんだよね。客観的に見れない(笑)。僕も工芸から来てるんですよ。そこから光の世界に飛び込んだので、自分を見ているような気がします。
:見えないものを見せたい、とか、見せるように表現していきたい、っていう思いは先生から受けたものもあって、そうじゃなければこの「風を見せたい」っていうことも感じなかっただろうなって。卒業制作くらいから、僕のテーマとして、軌跡とか痕跡とか肉眼で見えないものを見えるようにしたいっていうことがあります。先生はもう宇宙のほうにまで行っちゃいましたけど(笑)。ほんと、先生がいたからここまで来れたなって思います。



interviewer
高橋奈保子(視覚伝達デザイン学科研究室助手)
黒澤誠人(美術資料図書館)