出品者インタビュー>山本雄介助手

山本雄介助手(工芸工業デザイン学科金工研究室)インタビュー
聞き手:相野谷威雄氏(首都大学東京システムデザイン学部 インダストリアルアートコース助教)

・一連の作品の中で、何か必ず共通してやっていること、譲れない点などはありますか?

:犬が犬らしくあることとかですかね。
:関係性とかもじゃないの?
:そうですね。犬とものとの関係性はありますね。
:あの冷たさとかね。山本の作品は、あんまり「かわいいかわいい」じゃないし。それが犬との距離感を表現しているんじゃないかな。犬をキャラクターにはまったくしていないところがね。
:たしかにキャラクターにはしてないですね。そういう意味では犬を客観的に見ています。
:この距離感というものはどっかに必ずあると思いますよ。
:つくっているときに気にしていることがもうひとつありました。作品を空間として切り取ったときに、物語が描けるように、まるで絵本の挿絵のようになるよう、イメージしていますね。例えば、ここに犬がいて、その目線とその場の空気感は…というように意識しています。


・「フレーミング」ですね。

:いいですね。その言葉いただきます(笑)。


・では撮ってほしい角度とかは明確にあるんですか?

:それが、だいたいしかないんです。フレーミングはするし、物語を僕はつくる。思い入れがあって僕はつくるんですけど、あとは自由に見てほしいんです。物語をつくってもらいたい。その人がどう見るか…、この犬は何を見ているのか、人を待っているのかいないのか、そういったことは作品を見た人に考えてほしいんです。 だから、カメラマンにも「自分はこっちから撮ってもらった方がかっこいいと思います」と言った後は、カメラマンの好きなように撮ってほしいというのがあります。 作品からどういう印象を受けるか、というのはわりと鑑賞者に投げていますね。
:素直だよね。素直だからこそ、もう少し距離感をね…。
:意図との距離感ですか?
:まあ、いろんな意味でね。その距離感をまだ他人に任せっぱなしかな。
:設定としてはしっかり組んで、イメージも自分のなかにはしっかりあるんですけどね。それが「題名」であったりするんですよ。伝えるところとして。 それを見たらあとは鑑賞者にお任せ、という感じです。


・他の助手さんのなかには、タイトルは自由に見てもらうための入り口でしかない、というような方もいたんですが、山本さんはどうですか?

:題名に重きは置いていないですけど、制作中に物語をつくっているというのがあります。ですから題名は製作中に明確に決まってきている感じですね。
:深読みさせるわけでもないしね。
:深読みするのは見る人の自由ですから。だから題名はわりと悩まずに簡単に決められますね。


・実際に目にした状況を作品にしているということはあるんですか?モチーフとして。

:ないです(笑)。完全に創作です。そういうふうに居る犬はいますし、そういう靴は見てますけど、それを合わせているのは創作です。


・エドワード・ホッパーとか、街角を切り取った、ちょっとシュールな映像が浮かんでくるんですけど。

:どちらかというと、ジョージ・シーガルのような、「日常風景」ですかね。


・その「日常風景」に、何か意味性みたいなものは入っているんですか?この対峙しているものは何なのかというような、比喩的なものが…。

:いや、そういったものはないですね。鑑賞者が幸せになってくれれば(笑)。
:もっと気軽、カジュアルなんだよね。
:そうですね。芸術品をつくる、芸術をやっているという意識が僕にはあんまりなくて、もっとフレンドリーな、「芸能」みたいな。いや違うな、なんて言うんだろう…。
:インテリアみたいなものを意識してるんじゃないの?インテリアというフィールドに挑戦しているのかなって感じるけどね。
:うーん。インテリアというよりも、愛でてほしいんですよね。…あ、でも愛でるも違うかなぁ。何て言うんですかね?
:だからデザイナーズチェアに近いんだと思うよ。
:確かに、もうちょい近くていいんじゃないの、難しくなくていいじゃんという気持ちです。
:その辺が重なってきているんじゃないの。理解してもらえれば、インテリアに近いと思う。でも単純にインテリアと言うとそれはすごく遠い。
:美術館とかで「これはスゲーな」と思われるものよりは、ちょっとその辺で売っててほしいなと思われるものを…でも、これも違うかな。美術館に置いてほしいしなぁ(笑)。


・先ほどの芸能っていう言葉がとてもしっくりきましたが。

:大衆芸能じゃないですけど、僕の作品は気軽な、そんな崇高なものじゃない。手に届く値段でというのが前提にありますしね。
:崇高なものにしたがるのが日本にはあるからね。ギャラリービジネスなんかはそこが入り口だったりするから。やっぱり山本の作品はソファとかに近いんだよ。



interviewer
高橋奈保子(視覚伝達デザイン学科研究室助手)
黒澤誠人(美術資料図書館)