冨井大裕助手(彫刻学科研究室)インタビュー
聞き手:本郷かおる氏(switch point)
・現在の制作活動について
冨:1年間を通して個展やグループ展、学内展示が5、6本あって、その中の1つに、夏か秋なんですけど、switch pointでの個展があります。ここ数年はそんなサイクルで制作活動ができています。助手になってからは、生活面で安定したこともあって、これまでやろうと思っていた出来なかったことができるようになった。でも、その反面、時間の余裕がないのでネタがつきてきているのもあるけどね笑
今は新しいネタがないことを逆手にとって、以前やったものをリメイクする、グレードアップしたりしています。そうすることによって、結果的により伝わりやすいとか、わかりやすいものを作れるようになっている。助手前はネタを考えてはそれが実現できずに寝かしていた。でも最近寝かすヒマがないな。
本:なんかそれ、老舗っぽいね。(笑)
冨:そうですね。寝かす暇がないから新作と旧作を混ぜるとか、汚い技を覚えました。(笑)
本:必要なことですよね。
冨:僕もそう思う。「新作ばっかりの展示も芸がないぞ」と開きなおってます。
・作品制作について
冨:近年の展示で出来上がってくる作品は、助手展で言えば幾つかのナットがしめてあるボルトが壁に取り付けられているものとか、結んだ紐をブチッと切って展示台に置いてあるとか‥一見取るに足らないようなものなんですけど、それらが作品として出来上がるまでの生活すべてを「つくる」ということだと思っている。普段の生活と作品制作時で意識の差を出来るだけないようにしたい。スイッチの切り替えのように、そこでON-OFFがあることに違和感を感じる。それは作品制作が生活から離れて演技をしているように感じる。日常的な思考と制作に向かう思考が分断されないようにしながら作りたい。それから、彫刻メガネ?をかけないこと。彫刻家としての視点を持たないっていうこと。領域や形式に埋没したくない。自分自身が学生の時に彫刻学科にどっぷり浸かっていたから、余計にそう感じる。領域や形式に埋没していると、そこからの視点しか持てなくなる。彫刻メガネをかけていると、彫刻家らしいものしか見えなくなっちゃう。結果的に出来上がったものを鑑賞者が見て「彫刻だ」と言われることに抵抗はないけれど、制作時に自分が限定的な視点しか持っていないのは意識的に避けている。
・彫刻学科に入学したきっかけについて
冨:それはですね、木炭デッサンで、背景を描くことに違和感を感じたからですね。それだけです笑それと、通っていた予備校の油絵の先生が難しいことばっかり言っていて理解できなかったのに比べて彫刻の先生の話はとてもわかりやすかったから。彫刻がやりたくて入学したんじゃなくて、予備校の彫刻の先生が好きだったことと、木炭デッサンで背景を描くのがイヤだったから彫刻学科に入ったんです。そうそう笑
・代表作について
冨:よく人から代表作だと言われるのはこれなんです。
最近はこの作品をみた方が展覧会の企画を持ちかけてくれるのがほとんどですね。これ『ボールシートボール』っていうんです。ボールがあって、その上にシートが被さっていて、さらにその上にボールがあって、最後にボールで終わるからボールシートボールなんですけど。
自分の中では代表作とか、作品に対する優劣の意識はないんですよね。でもこの作品のおかげで、展示を見に来てくれる人にとってはその他の作品も理解できるようになるらしい。出来の良い作品が代表作なのではなくて、これまで自分がやってきた制作をわかりやすくしている作品が代表作なのかなって思います。
・影響を受けた人や作品について
冨:ドナルド・ジャッドとか、デニス・オッペンハイムとかかなあ。なんだこれ!箱ばっかり作っちゃて!‥そういう人達かな。それと特定の人物や作品じゃないですけど、僕は作品を自己評価することより、周りの人からの評価から作品を理解する方が多くて。本郷さんのように展示の機会をくれる人や、文章を寄せてくれる人がいることで、「あ。これでいいんだ」って確認していることが多いですね。ここ何年間は、展覧会の数も増えてきてその分周りの声も大きくなってきたと思う。そういった声に後押しされたり、ダメージを受けたりしてグラグラしている自分を年1回調整できるのがこのswitch pointです。
本:時差を調整している感じだね。閏年みたいな存在です。(笑)
冨:そんな感じでここ(switch point)にお世話になってます。
・本郷さんとの出会い
本:国立のモツ煮込み屋です。
冨:本郷さんはものすごい人なので、出会ったその場で展示を決めちゃったんですよ。
本:実は、それより半年くらい前から、付き合いのある作家さん達から「冨井さんの展示をやらないとダメです」って言われてたんですよ。
冨:もう周りから堀が埋められてた‥っていう。
本:それ以来、年1回冨井さんの展示をやっています。
冨:だけど、switch pointはギャラリーではないんですけどね。
本:そうそう。私はギャラリストではないし、ここをギャラリーだと思ってないんです。
冨:本郷さんの職業はそもそもグラフィックデザイナーで、その延長で、本郷さんの造形感覚とつながってくる作家をここで紹介している‥、そういう場所なんです。
僕がここで展示をさせてもらっていることは、さっきも話したように調整の意味でも重要なことなんですけど、ここは本郷さんの造形感覚の趣向を見せる場所でもあるから、自分はその造形感覚を形成する1パーツみたいな感じもありますね。
本:パーツの中でもわりと大きくなってきました。(笑)
冨:美術館やギャラリーでの展示は、テーマやなにかしらの枠が設定されているけど、switch pointはそういったものがないんです。
本郷さんが展示をやりたいと思ってくれて、僕がそれに応えるという、それだけの関係で成り立っている展示だから逆に逃げがないんです。
本:打ち合わせもしませんしね。
冨:本郷さんとの関係を、展示に来てくれる人達も知っているから、他と緊張感が全然違いますよ。
本:「今までswitch pointで展示をした人達が、ここでやったことを恥だと感じるような展示はしないで」って作家に伝えちゃうんです。ここは私だけではなくて、みんなが少しずつ頑張って作った場所で、少しずつ頑張って維持をしている場所なので、その人達に申し訳なくなるようなことはしないって決めてるんです。
冨:それを知ってか銀座のギャラリーで展示をする時より、ここでする時の方がオープニングに来てくれる人が多いんだよね。DMにオープニングって書いてないのにね。
本:ありがたいですね。
冨:ありがたいですよ。
本:私はただ、美術を好きな人として冨井さんをサポートしていきたいと思っています。
冨:ありがたいです。
・助手について
冨:僕の場合、修了して7年経ってから助手になったからいわゆる助手像とは違う立場かも。どちらかというと教員に近い関係にある先輩。
・リニューアル展について
冨:これまで助手展に参加してきて、いろんな領域から作られた作品それぞれに質の高さを感じた。その信用があって、さらに踏み込んだ、場を活かすような展示がそれぞれの領域から出来ると思っています。僕は助手展において、他の作品とどういったハレーションを起こすかということを考えている。例えば、絵画が並んでいる間にボルトを取り付けたり。そうすることで絵画や、その展示会場の見え方が変化することを狙ったり。展示することで図書館の場所性や機能が変化したり、再認識させることができるんじゃないかと思っています。いろんな領域からそれが行われたらどうなるだろう‥というのが今回の企画の動機の1つです。
・冨井さんの展示プランは?
冨:例年よりもさらに場の機能にとけ込んでしまう展示をできたらいいなと思っています。簡単に言うと、いつもと違う床を作っちゃうとかね。それによって普段の床を意識させることにもつながるだろうし。
わからりやすく言うと、そういうことが出来たらいいのかなあと思っています。
interviewer
高橋奈保子(視覚伝達デザイン学科研究室助手)
黒澤誠人(美術資料図書館)