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佐藤哲至助手(本学視覚伝達デザイン学科研究室)インタビュー
聞き手:藤田至一氏(東京芸術大学大学院 映像研究科)

:手話で話をしている人が電車にいる。耳の聞こえない人同士が、手話でめちゃくちゃ盛り上がっている。その話がすごい面白いということはわかる。わかるんだけど内容は全くわからないっていう状況。外国人が話しているときとかもそうですよね。そういう状況って面白いよね、と大学院の友達と話をしてて、これは難しそうだけどダメもとでやってみようと。


・言語の違う人がしゃべっていて、面白いことだけは伝わってくるけど…というのを作品化、映像化しようと?

:作品化するということですね。この、何とも言えない新しいコミュニケーションを、どうしたら表現できるかってことをね。そこから先は何が面白いかどんどん還元していくっていう…。


・要素を抽出していくんですね。

:面白さの本質っていうのは、抽出の仕方によっては幾つか出てきちゃうとは思うんですけど、一番ポイントにしたのは「何かはわかる、でもなぜ面白いのかがわからない」というか(笑)、「何かが欠落した状態って面白い」っていうシンプルな構造です。 手話が面白いという例で言えば当初の設問がそもそも難しくて、言語的な面白さを面白がっているのか、もっと他の要素に起因して面白いのかがちょっとわからなかったんですけど、確かに何かが欠落している。そしてそれを想像できるときは面白いに違いないっていう仮説を立てました(笑)。


・逆だと思っていました。どれだけ要素を取り外していって、本来の事象が認識できるのか、だと思っていました。逆ですね、ベクトルが。

:よくわからないけど面白いという発想からスタートしているので、発想のベクトルとしては逆ですけど、それをビジュアルにするためにはどうするのか、無限のパラメーターがありますよね。何を欠落させればいいのかとか。 それで、とりあえず人間の姿でやってみたんです。どこをなくしても人間に見えるのか、なくなってもわかる部分、なくなったらわからない部分を探していきました。腰と頭だけだとわからないとかね。で、足2本、踝あたりと首とか頭があれば人間に見えるなって、深夜にすごい盛り上がって(笑)。これは面白いと。 で、今度はこれをどこに写したらいいのか、という具体的な問題が出てきて。最初は小さな箱に写したりして、「小さいのも面白いね、かわいいね」とか言ってたんですけど、ふと偶然あったパーマセルテープに目がいったんです。


・線であることがより強調されていますよね。

:そうですね。線が強調されるのと、それから映像にならないんですよね。立体の気配が抽出できるっていうか…平面なんですけど。 それから、間隔がすごい重要で、離れすぎるとあんまりな感じなんですよ。3本にすると逆に見えすぎて、つまらなくて。何かそういった繊細な感覚はすごく気にしました。共同制作なんですけど、うまくいった作品です。 メディアの枠組みとして、クオリティはすごく上がっていったと思うんですけど、まだまだ余地はあるなと。線分がどんどん遷移していってもいいかも知れないですよね。
:線が移動していくってこと?
:線も動くんだけど。人もね。こっちの人の左足と、向こうの人の右足が、1人の人間の足になるとか…。徐々に遷移していったら、頭の中でイメージがさらに自然に繋がると思うので。


・こちらの作品はビー玉ですか?

:これは100円ショップで買ったゴムの玉なんですね。これは「原理」という課題から始まった作品ですね。「数学や物理の原理が露見する状況を作りなさい」というシンプルな課題でした。入射角と反射角が一致するという原理をわかっていれば予測はできる、どこに当たってどこに跳ねるのか。転がすと先回りして、そのつど誤差を修正していくので、目的地に当たるようになります。それが終わったらすぐに次のをやるので、映像的には過去のものではなくて、未来が表示されているということになります。ですから、「未来を表示する装置」になったんですよね。原理をわかりやすく説明するだけで、別の付加的な意味がくっついてきて「しめた」って(笑)。 だから原理っていうのが僕の中ではすごく大きくなってきました。シンプルな原理を非常に強い強度で表現すれば、表現としてどうかは別ですが面白いものとしては成立すると思います。シンプルであればある程いいですね。

・これらはすべて課題なんですか?

:このあたりから個人研究になってきていて、迷っているんです(笑)。面白くなってきているんですよね。イメージと実体、物質と映像ということに置き換えられるのかも知れないですけど。映像に対して実体が働きかける場合と、実体に対して映像が働きかけるという2通りのことを入れ子状にできないかなと考えて、対比させたかったんです。


・原理や映像、実体と取り組んできて、最初にお話しくださったメディアとコミュニケーションにどう繋がるんでしょうか?どう捉えているんでしょうか?

:単純にメディア=コミュニケーションになるなと思っています。メディアそのものがメッセージになるし、何かを伝える媒体にもなるし。コミュニケーションもメッセージだし、媒体にもなる。コミュニケーションの全貌はメディアそのものだなと思いますね。 よくわからないなりに考えてきたことって、あながち間違っていなかったなと(笑)。巡り巡って同じ地点にいるっていうか…。



interviewer
高橋奈保子(視覚伝達デザイン学科研究室助手)
黒澤誠人(美術資料図書館)