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三本松淳助手(映像学科研究室)インタビュー
聞き手:宗田進史氏(映像学科卒業生)

・場所性に影響を受ける、あるいはまず「場所」があってそこから制作に入るというスタンスは以前からお持ちなのでしょうか?

:あらためて自分の撮ったものを振り返ってみると、そうだと思います。写真って写すものがなければしょうがないんです。カメラという入力装置があって、ファインダーをのぞいて何かを切り取って発見する、イメージを見つける、あるいは視点を見つけるという感覚に近いんです。そういうことでしか何かを「作品化」することはできないんですよ。つまり撮られる対象がなければ作品が生まれないんですよね。


・イメージという言葉にはいろいろな意味がありますが、三本松さんにとって「イメージ」とはどういうものでしょうか?

:むずかしい質問ですね(笑)。対象と向き合ってまさに見ているものもそうだし、そういうものがあったという自分の記憶のなかの像もイメージですよね。さらに映像や写真やペインティングなど、とにかくどういう形式であれ、それらの対象を自分のなかに取り込みアウトプットされたものもイメージでしょうね。 これらすべてがイメージという言葉でくくられると思います。


・例えば作品に取りかかるときに抱く「イメージ」は、そのまま最終的に作品ができるまで持続されるものなのでしょうか、それとも変わっていくものでしょうか?

:うーん、それは変わっていきますね。反復することによって変わっていくものだと思います。


・その反復とはブラッシュアップということでしょうか?

:どうなのかなあ。たとえば1回撮影してみて見えなかったものが2回目の作業では見えてくることがあるし、その対象を撮り続けていくうちに「なぜ自分はこれを撮るんだろう?」って言葉で反復しますよね。それがブラッシュアップになるかはわからないですけど、少なくとも立ち位置は確実に変遷はします。


・カメラを身体に直結した道具として反射的にシャッターを押すことができる道具と考える人もいれば、そうではなくて明確な目的をもって対象に向き合って完全な意識下でシャッターを切るという考え方もあると思いますが、三本松さんにとってはどちらでしょうか?

:それについては、どちらでもないし、どちらでもありますね。例えば雨を撮りたいというときに雨が降っていないとどうしようもないですよね。いわば自分以外の要素による作用を受けざるをえない面が強いんです。
:北海道に彫刻家のイサムノグチによるモエレ沼公園っていうところがあるんですが、普通はひとりの彫刻家による仕事であればもっと一貫した特徴があっていいはずなんだけど、そうではないんですよ。もし西洋の造園家だったら、まず更地にして土を盛ったり、掘ったりするようなところを、彼の手法は違っていて、空間に何かを働きかけるということをやるんです。そこに存在する場所に対して、こうやったらおもしろいものができるかな、と発想し働きかける。当然そこでは雨も降るし、風も吹くということなどすべて含めてのスタンスなんですよね。それって西洋の純粋芸術の分野で、良しとされてきた姿勢とはかなり異なるはずなのですが、東洋的な考え方としてそれなりに評価されているのかもしれないです。彼の仕事と僕らではつくっているものは違うけど、対象や環境へのアプローチとしては近いなあと思います。…少し話をややこしくしてしまったかもしれませんが。
:いや、すごくいい例えだと思います。何かをつくるときって、言葉に引きずられてついつい「つくる」こと自体が絶対視されがちですが、僕にとってはそうではないんです。相手がいなければはじまらないし、あるいは世界がそこになければ自分は何もならない、という意識がありますね。環境に身を委ねる、あるいは環境があるから何かを撮ることができる、というのがつくる上でのコアな感覚だと思います。  だから与えられたものを自分のなかでブラッシュアップしていく過程で目的が形成されていくところがあります。でも、その前にまずは何かがあるんですよね。それを「見る」ことから始まるんです。その「見る」というのは、単に見るだけではなく、自分が撮影して現像したものを見たり、人と話して発見することも含めての「見る」ですけどね。


・絶対的な動機があるわけではなくて、外側から何かを見ることで、目的が徐々に明確になってくるのですね。そういうスタンスはずっと一貫しているのですね。

:そうですね。だからそういう意味で僕にとっては「ものをつくる」ということではなく「ものをうつす」だと思いますね。


・「つくる」ではなく「うつす」なんだ、という感覚を抱かれたのは、写真を撮り始めた時からでしょうか?

:自分がやっていることだけでなく、周囲の人のつくるものやつくる際の考え方に触れていくなかで得た感覚でしょうね。だから学生時代にはなかったと思います。具体的にいつ、とは言えませんが、強いて言えば研究室のスタッフになってからじゃないかな。自分のやっていることに対して、周囲と相対比較するなかで徐々にそう考えるようになってきたんだと思います。



interviewer
高橋奈保子(視覚伝達デザイン学科研究室助手)
黒澤誠人(美術資料図書館)