河名祐二助手(日本画学科研究室)インタビュー
聞き手:中村功氏(画家)
・(1980年の「今日の作家—感情と構成」展(中村功氏が出品されている)、「ArtToday‘80絵画の問題展」展覧会図録を見て)「決定的だった」というところをもう少し詳しくお話ししていただけますか?
河:素人に毛が生えたような僕の言葉では、うまく説明できないのですけれど…。これ以前の、60年代70年代に絵画の流れのようなものが、行き詰まった、といわれていた時代の批評文を読んだりとか。また、作品を見ていてもそう思えるものがあったんです。そして、自分の中でも、制作の難しさとか新しいものや自立したものとかをつくっていく難しさとかを、卒業制作の頃までにすごく感じるようになっていて。そこで、それを振り払うような作品だったという意味で、『決定的だった』と。
その中には多少強引なところもなくはないと思うんですが、その、表現の限界というものが作品自体からも伝わるし、それでありながらさっき言った絵画の行き詰まりのようなものを確かに超えているというのが、わかったんですね。そういう意味で「絵画にもまだ可能性が残っているんだ」というひとつの希望でもあったんです。
つまり、好きに描けばいいという訳にはいかないという所から、どれだけ自分の表現を出せるか、という瀬戸際みたいなところが可能性として残っている、というのがわかったんですね。で、いま自分がそれをできているかというとできていないんですけれども…。
・「好きに描けばいいという訳にはいかないんだな」というのは、誰かに対して見せる作品だからという意味で、ですか?
河:そうですね。あとはやっぱり、過去の作品との類似とか。新しい、積極的な作品をつくっていくうえで、という意味でもあるんですけど。もちろん、好きに描いていくというのも行為としてはできるんですけど。作家としてやっていくときには必ずそういう問題は出てくる、ということですかね。
・実際に制作をする際、描かれる際に、何かモチーフとなるものはありますか?
河:いろんなものだったりもします。例えば、校舎のシミとか。そういうものから発想がきたりもするんですけど、基本的には自分の描いたものから 次の発想がきているんじゃないかな、と思います。
・具体的なモチーフを設定するよりも、キャンバスにぶつけた結果から展開していくということですね。
何か一貫したテーマはあるんですか?
河:テーマですか。えーと、テーマは「絵画」と「平面」と。あとは、最近扱っている絵具が、かなり物質感が強く、扱いづらいものが多いので、そこからも何か考えられるかな、とは思っているところですけど。
・「平面絵画としての絵画を制作したい」とおっしゃっていたのが印象的だったのですが、そこについてもう少し詳しく説明していただけますか?
河:大きく考えれば、具象とか具象からくるモデリングとか、そういう表現とかではなくて、平面という、そのメディウムも含めてそのものをテーマにしているという意味ですね。でも、いろいろな要素がたくさんあるんで、なかなか一口では難しいんですけど。
・(中村さんに対して)具体的に作品を見てのお話しを聞かせていただけますか?
中:さっき、作品を見せてもらっていて、もういろいろと言っちゃった後なんですけどね(笑)。
・もう一度お聞かせください(笑)。
中:描く領域の各要素の色面がそれぞれ違うわけですよ。その違う色面を繋ぎ合わせたときに、普通だったら統合する場面はひとつの秩序みたいな、ひとつの空間秩序のようなかたちで統合されるのだけれども、統合されるまでいっていないんですけれど。むしろ、統合を少し壊している。それでいながらひとつになれるというのは、これはなかなかの複雑性というか、統合されていない画面ながらもひとつの凹凸感があるという、この複雑な色面から、なんというか感情の起伏みたいなものがうかがえますよね。そういうのが「あ、いいな」というふうに思ったんですよ。
この作品は大きいから、一目で見れないでしょう。
河:高さが2m36cm、幅が4m近くですね。
中:これは、さっきの辰野さんの作品(「ArtToday‘80絵画の問題展」出品作家である辰野登恵子氏の同展示出品作品を差して)ともちょっと似た感じがするんだけど、根底的に違うのは、こっちは全体性の統合を考えてますから、似てるけど違うということなんじゃないかなと思うんですよね。ただ、見かけはすごく似てるので、まあ影響はあると思いますが…。
でも時代が違うから、やっぱり色彩がかなり現代的ですね、河名さんは。でも、辰野さんの作品はもう1980年ですからね。生まれる前?
河:いや、生まれる前ではないです。
・生まれて間もない頃ですよね。
中:まだ幼稚園も行っていないのですね。すごいですよね、辰野さんも(笑)。
interviewer
高橋奈保子(視覚伝達デザイン学科研究室助手)
黒澤誠人(美術資料図書館)